WORKS NO. 852 『戦火の果てにある島』
兵士レオンは、瓦礫となった街でたった一人生き残った。
仲間の声は途絶え、無線から聞こえるのは撤退命令と砲撃音だけ。食料袋は空になり、水筒には泥の混じった水がわずかに残っていた。何のために戦っているのかさえ分からないまま、彼は銃を抱えて歩き続けた。
崩れかけた地下室から、小さな物音が聞こえた。
そこにいたのは、空腹で震える少女ミアだった。爆音が響くたびに頭を抱え、声を殺して泣いていた。レオンが最後の乾パンを差し出すと、少女は半分だけ食べ、残りを彼に返した。
「あなたも、おなかがすいているでしょう」
その言葉に、レオンは銃よりも重い痛みを感じた。
戦争は、兵士から良心を奪い、少女から家族と笑顔を奪った。それでもミアは、自分より他人を思いやる心を失っていなかった。
レオンは命令を捨て、少女を守ることを選んだ。
二人は地下道を抜け、炎に包まれた街から港を目指した。途中、崩壊した橋を渡り、無人の病院で薬を探し、敵味方の区別なく飛んでくる銃弾から身を隠した。ミアが高熱で倒れた夜、レオンは自分の上着で少女を包み、一晩中その手を握った。
夜明け前、追っ手が現れた。
「少女を置いて部隊へ戻れ」
かつての上官は命じた。しかしレオンは銃を地面へ置いた。
「この子を犠牲にして得る勝利なら、そんなものは敗北と同じだ」
二人は砲撃をかいくぐり、港に残された小型船へ乗り込んだ。燃料は少なく、海図も壊れていた。背後では街が赤く燃え、空には戦闘機が飛んでいた。
荒れ狂う海は、戦場から逃げた二人を簡単には許さなかった。嵐で帆を失い、飲み水は底をつき、漂流三日目にはミアが再び動けなくなった。レオンも傷が悪化し、意識を失いかけていた。
それでも少女は言った。
WORKS No.852

