WORKS NO. 807 新たな人類の悲劇
欲消えて
等しき世界
救い合い
夢まで失せて
ひとり立ちたり
愛の核兵器によって、人間のカルマ(業)は奪われた。
強欲も支配欲も消え、人々は争わず、平等に分け合い、互いを助けるようになった。愛の伝道師団は使命の達成を喜び、世界には永遠の平和が訪れたかに見えた。
しかし、人類は大切なことを見落としていた。
欲望のすべてをカルマとして奪ったため、生きたいという願い、誰かを愛したいという衝動、未来をつくろうとする意志まで失われていたのだ。
競争も憎しみもない代わりに、夢も情熱も生まれない。新しい命を望む者は減り、人類は静かに衰退していった。
やがて愛の伝道師たちも一人ずつ消え、都市から声が失われた。
最後に残されたのは、成長した女性リーダーただ一人だった。
無人の地上に立ち、彼女は自らが完成させた愛の核兵器を見つめる。
「私は人類から悪だけを奪ったつもりだった。けれど、善も悪も、希望も迷いも、人間の心の中でつながっていた。愛とは、すべてを同じにすることではなかった。異なる心を持つ者同士が、傷つけずに生きる道を選び続けることだった」
強欲を滅ぼし、平等と助け合いを実現した世界で、人類は滅亡した。
彼女は涙を流しながら悟る。
完全な愛を押しつける兵器もまた、新たな悲劇を生むのだと。
WORKS No.807

