WORKS No. 844 氷時計の都と最後の一秒

WORKS No. 844 氷時計の都と最後の一秒

WORKS NO. 844 氷時計の都と最後の一秒

少女のスマートフォンに、見たことのない時計が現れた。
針は逆向きに回り、数字の代わりに雪の結晶が並んでいる。画面に触れた瞬間、窓の外から虹色の翼を持つドラゴンが飛び込んできた。
「急いで。君の時間が凍る前に」
ドラゴンは少女を抱き上げ、吹雪の空へ舞い上がった。雲を抜けた先に広がっていたのは、無数の時計塔がそびえる氷の都だった。
そこでは雪が空中で止まり、人々は笑ったまま動かず、噴水の水さえ透明な彫刻になっていた。街中の時計は、午前零時まで残り一秒のところで止まっている。
「ここは、忘れられた時間が集まる都だ」
ドラゴンは少女を巨大な時計塔へ連れていった。
塔の最上階には、氷に閉ざされた少女の母が眠っていた。それは、まだ若く、少女を産む前の姿だった。
「どうしてお母さんがここにいるの」
「君の母親は昔、この都の時間を守る番人だった。しかし君を救うため、自分の未来を時計に差し出した」
少女が生まれた夜、本来なら命の炎は消えるはずだった。母は都の時計を止め、その最後の一秒を娘に与えた。少女が生きてきた年月は、母が失った時間そのものだった。
そして今、借りた時間が尽きようとしていた。
少女の手の中で、スマートフォンに亀裂が走った。画面には二つの選択肢が浮かんでいた。
「母の時間を返す」
「自分の時間を生きる」
母を救えば、少女の存在は過去から消える。自分を選べば、母は永遠に氷の中で眠り続ける。
少女は涙をこらえ、どちらにも触れなかった。
「時間は、誰かを犠牲にしなければ進まないの」
ドラゴンは答えられなかった。何千年もの間、その二つしか方法はないと信じていたからだ。
少女はスマートフォンを床に置き、力いっぱい踏みつけた。
画面が

WORKS No.844