WORKS No. 847 怪異の少女と百八つの心

WORKS No. 847 怪異の少女と百八つの心

WORKS NO. 847 怪異の少女と百八つの心

魔法使いの母と、百の眼を持つ怪異の父。その間に生まれた少女・カヤは、人の心に潜む煩悩を見る力を持っていた。
欲望は黒い蛇に、嫉妬は無数の眼に、憎しみは炎を吐く獣に姿を変える。カヤが近づくだけで、それらは人間の身体から這い出した。
人々は救われるどころか、心の醜さを暴かれることを恐れ、彼女を「災いの子」と呼んだ。学校から追われ、石を投げられ、孤独を強いられても、カヤは夜の街を巡り続けた。
「嫌われても、誰かが苦しまずに済むなら、それでいい」
ある夜、カヤは人間の少年レンと出会う。彼だけは怪異を恐れず、傷ついたカヤに手を差し伸べた。二人は力を合わせ、街を覆う煩悩の怪物を次々に倒していく。
やがて人々もカヤを英雄と呼び始めた。しかし、それは仕組まれた評判だった。
レンの正体は、怪異を滅ぼす組織の後継者だったのである。彼はカヤに倒させた煩悩を密かに集め、巨大な兵器へ変えていた。その兵器で怪異の父を討ち、人間だけの世界をつくるつもりだった。
裏切りを知ったカヤの前に、父が現れる。街を恐怖に陥れてきた怪異こそが、実は兵器の完成を阻止し続けていたのだ。
カヤは父を信じ、レンと対決する。だが、兵器が起動した瞬間、さらに真実が明かされた。
兵器を設計したのは、死んだと思われていた母だった。
母は人間の煩悩をすべて消せば、争いのない世界になると信じていた。しかし煩悩を失った人々は、夢も恋も向上心も失い、命令に従うだけの空っぽな存在へ変わり始める。
カヤは悟った。
煩悩は悪だけではない。誰かに認められたい心も、大切な人を守りたい願いも、生き抜こうとする執念も、同じ根から生まれている。
彼女は兵器を壊さず、その力を自分の身体へ取り込んだ。百八つの煩悩が全身を焼き、カヤは怪物へ変貌する。
父は娘を救うため自らの命を差し出そうとし、母も過ちを認めて魔力を解放した。そのとき、レンがカヤを抱きしめた。
「醜い心ごと君を受け入れる。それが人間だ」
レンの胸にも、罪悪感と恐怖の怪異が宿っていた。カヤは初めてそれを退治せず、静かに抱きしめ返した。
すると怪物たちは光の粒となり、人々の心へ戻っていった。煩悩は消えなかった。ただ、自分の弱さに気づき、向き合う力へと姿を変えた。
数年後、街の片隅に、人間と怪異が共に暮らす小さな相談所が開かれた。
母は傷ついた心を魔法で癒やし、父は百の眼で見えない苦しみを見つけ、レンは自らの過ちを語り続けた。
その中心で、成長したカヤは笑っていた。
かつて人々に避けられた怪異の少女は、誰もが隠したがる心の闇を、責めずに受け止める存在となった。
彼女が手に入れたのは、煩悩のない世界ではない。
弱さを持つ者同士が、それでも手を取り合える世界だった。

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