WORKS NO. 871 『雲海の果てに咲く、機械竜との約束』
天空に無数の島が浮かぶ世界で、少女リノアは機械竜《アルク》と暮らしていた。
三つの瞳と鋼鉄の身体を持つアルクは、かつて空の王国を守るために造られた。しかし戦争が終わると、その異様な姿と強大な力を恐れられ、廃棄された。
幼いリノアが瓦礫の谷で見つけた時、アルクは翼を失い、胸の動力炉も消えかけていた。
「あなたが飛べないなら、私が翼を直す。いつか一緒に、雲の向こうへ行こう」
それから十年。機械技師へ成長したリノアは、何千もの部品を組み合わせ、ついにアルクの翼をよみがえらせた。
二人が目指したのは、雲海の果てにあるという「星降りの庭」。そこには、どんな傷も癒やす青い花が咲いていると伝えられていた。
初めて飛び立った朝、空はどこまでも青く、浮遊島の滝が虹を描いていた。アルクの背で風を受けながら、リノアは世界中を手に入れたような喜びに包まれた。
しかし、冒険は美しい景色ばかりではなかった。
磁気嵐の夜には方角を失い、雷に打たれたアルクの翼が停止した。食料を積んだ箱も雲海へ落ち、リノアは寒さと空腹に耐えながら、震える手で歯車を修理した。
ようやく辿り着いた浮遊島では、空賊たちに襲われた。
「その機械竜を渡せば、命だけは助けてやる」
リノアは怖かった。だが、自分を守ろうと傷だらけの翼を広げるアルクを見て、工具を武器に立ち上がった。
「この子は乗り物でも兵器でもない。私の大切な家族よ!」
二人は力を合わせて空賊を退けたものの、アルクの動力炉は限界を迎えていた。星降りの庭を目前にして、飛び続けられる時間は残りわずかだった。
アルクは三つの瞳でリノアを見つめ、自分だけを雲の上へ放り出そうとした。
「一人で助かるくらいなら、私はここまで来なかった」
リノアは宝物にしていた母の形見のペンダントを動力炉へ組み込んだ。それは故郷へ帰るための転送装置でもあった。
帰還する道を失っても、アルクと生きる未来を選んだのだ。
二人が最後の力で嵐を抜けた時、夜空から無数の光が降り注いだ。
星降りの庭には、青い花など咲いていなかった。そこにあったのは、空を覆うほど美しい星々と、どんな機械にも新たな命を与える光だった。
星の光を浴びたアルクの動力炉は静かに輝き、壊れた翼は淡い光の翼へと変わった。
リノアはその首に抱きつき、涙を流した。
「帰る場所を失ってしまったね」
アルクは優しく喉を鳴らし、三つの瞳を細めた。
その瞬間、リノアは気づいた。
帰る場所とは、生まれた土地だけではない。自分を信じ、苦しい時にも隣にいてくれる存在がいる場所なのだ。
二人は故郷へ戻らず、星空の下を旅し続けた。嵐に迷う旅人を導き、壊れた機械を修理し、孤独な者には空の美しさを見せた。
冒険の試練は、夢を諦めさせるために現れるのではない。
何を守り、誰と歩み、何を手放してでも進みたいのか自分の心にある本当の答えを教えるために訪れる。
幸せとは、苦難のない道を選ぶことではない。
愛する存在と力を合わせ、苦難さえも新しい景色へ変えていくことなのだ。

