WORKS No. 906 未来から預かった一本の樹

WORKS No. 906 未来から預かった一本の樹

WORKS NO. 906 『未来から預かった一本の樹』

荒れ狂う雲と稲妻の下、山よりも巨大な自然の守護者が、一本の樹を光の球体に包み、静かに掲げている。
その身体は岩で造られ、草木に覆われ、腕から流れ落ちる水は大地を潤していた。彼女は世界を支配する神ではない。人間が忘れかけた自然の声を、沈黙のまま伝える存在である。
掌にある一本の樹は、彼女の所有物ではない。
それは、まだ生まれていない子供たちから、今を生きる私たちが預かっている未来そのものだ。
私たちは、大地も森も水も、自分たちのものだと思い込みやすい。必要なら切り開き、足りなければ掘り起こし、古くなれば捨ててもよいと考えてしまう。しかし、自然は人間だけの財産ではない。鳥や獣、虫や草花、そして次の時代を生きる生命と分かち合う場所である。
守護者の巨大な手は、山を砕くこともできるだろう。
それでも彼女は拳を握らず、小さな樹を落とさないよう、慎重に掌を開いている。
本当の強さとは、何かを奪い取る力ではない。
壊せる力を持ちながら壊さず、自分より弱いものを守るために、その力を制御できることだ。
人類は科学と技術によって、自然さえ変えられる力を手に入れた。だからこそ、その力には大きな責任が伴う。便利さや利益を求めることが悪いのではない。その代償を見ようとせず、未来へ押しつけることが問題なのである。
今日植えた一本の樹が、大きな森になるまでには長い時間が必要だ。
反対に、何百年もかけて育った森を失うのは、一瞬である。
破壊は短く、再生は長い。
だから私たちは、失ってから後悔するのではなく、残されている今こそ選ばなければならない。
水を汚さないこと。
資源を使い捨てないこと。
目の前の豊かさだけでなく、その先に生きる者たちを想像すること。
一人の行動は小さく見えても、未来の森は必ず一本の樹から始まる。
守護者が空へ掲げる光は、救済の奇跡ではない。
「この命を、あなたたちは誰へ手渡すのか」
そう問いかける、未来からのまなざしである。
地球は、私たちが先祖から譲り受けた所有物ではない。
次の世代から、限られた時間だけ預かっている命の場所なのである。

WORKS No.906