WORKS No. 886 恐れられる力と、信頼される心

WORKS No. 886 恐れられる力と、信頼される心

WORKS NO. 886 『恐れられる力と、信頼される心』

深い密林の水辺に、巨大な機械仕掛けのワニと、その隣に立つ一人の女性がいた。
鋼鉄の装甲、鋭く並んだ牙、獲物を逃さない大きな顎。その姿を見た人々は、ワニを凶暴な怪物だと決めつけ、女性のことも危険な力を操る支配者として恐れた。
しかし、彼女はワニを従わせていたのではなかった。
二人は言葉も姿も異なりながら、互いに不足しているものを補い合っていた。女性は知恵によって進むべき道を見つけ、ワニは強靱な身体で彼女を守った。どちらか一方が上に立つのではなく、異なる力を尊重することで、初めて一つの強さを生み出していたのである。
ある日、密林を激しい嵐が襲った。
川は氾濫し、濁流が森の生き物や人々の暮らす村へ押し寄せた。村人たちは助けを求めたが、荒れ狂う水の中へ入れる者はいなかった。
そのとき、真っ先に濁流へ飛び込んだのは、人々が怪物と呼んでいたワニだった。
女性はその背に乗り、逃げ遅れた者たちの居場所を示した。ワニは巨大な身体で流木を受け止め、何度傷ついても前へ進んだ。そして、最後の一人が救われるまで、水辺から離れようとはしなかった。
災害が去った後、人々は初めて、その牙の意味を知った。
鋭い牙は、弱い者を傷つけるためではなく、襲いかかる危険を食い止めるためにあった。巨大な身体は、恐怖を与えるためではなく、多くの命を背負うためにあったのである。
私たちは、外見だけで相手の心まで判断してしまうことがある。
恐ろしい姿をした者の中に深い優しさがあり、穏やかな言葉を語る者の中に冷たい計算が隠されていることもある。だからこそ、見るべきものは姿や肩書ではなく、その者が力を何のために使っているかという行動なのだ。
強さそのものに、善も悪もない。
強さを支配や破壊に使えば、それは恐怖になる。しかし、誰かを守り、異なる命を支えるために使えば、それは希望へと変わる。
また、信頼とは相手を思いどおりに動かすことではない。相手の意思を尊重し、その力だけでなく、痛みや弱さまで受け入れることで育っていく。
本当に強い者とは、恐れられる者ではない。
自分より弱い者のために力を使い、自分とは異なる存在とも並んで歩ける者である。
人は、怪物を倒すことで英雄になるのではない。
偏見という心の怪物を乗り越え、恐れていた存在と手を取り合えたとき、初めて未来を守る者になれるのである。

WORKS No.886