WORKS NO. 883 『育ち過ぎた怪物との別れ』
子供たちの想像から生まれた怪物は、いつの間にか、街の建物を覆い隠すほど大きく育っていた。
寂しい夜には隣で眠り、傷ついた日には盾となり、行き場のない怒りを受け止めてくれた怪物。それは子供たちにとって、誰にも理解されなかった心を知る、かけがえのない友達だった。
しかし、子供たちはいつまでもストリートで遊んでいることはできなかった。
成長するにつれて、学校では成績を比べられ、競技では順位をつけられ、社会へ近づくほど、速さや正しさ、才能や結果を求められるようになった。
昨日まで一緒に笑っていた仲間も、いつしか同じ場所を目指す競争相手になった。誰かが先へ進めば焦り、失敗すれば取り残されることを恐れた。自分らしく生きたいと願いながらも、周囲に認められるための顔を覚え、弱さを隠すための言葉を身につけていった。
競争そのものが悪いわけではない。
互いに高め合う競争は、人を成長させ、眠っていた可能性を引き出してくれる。しかし、勝つことだけが人生の目的になれば、仲間は敵に変わり、自分の価値さえ順位でしか測れなくなる。
怪物は、そんな子供たちを心配していた。
けれど、大きくなり過ぎた怪物は、もう彼らと同じ道を歩けなかった。巨大な身体では現実の狭い門を通れず、夢や空想を恥ずかしいものだと考え始めた子供たちの前に、姿を現すこともできなくなっていた。
別れの日、少年は怪物を見上げた。
「もう、君がいなくても歩かなければならない」
その言葉は強がりではなく、成長するための決意だった。
怪物は悲しそうに瞳を細めたが、引き止めはしなかった。守るということは、いつまでも自分のそばに置くことではない。ひとりで歩ける力を信じ、必要なときには帰ってこられる場所を残すことでもあるからだ。
少年は仲間たちと現実の世界へ向かった。
勝った日もあれば、努力しても報われない日もあった。競争に疲れ、友達の成功を素直に喜べず、自分の未熟さを嫌いになる夜もあった。
それでも少年は、完全に優しさを失うことはなかった。
誰かを蹴落としそうになったとき、心の奥から低い声が聞こえた。失敗した仲間を笑いそうになったとき、遠い街角に巨大な影が見えた。自分には価値がないと思った夜には、怪物の大きな瞳が、幼い頃と同じように静かに見守っていた。
怪物は、消えたのではなかった。
想像力、冒険心、孤独に耐えた記憶、仲間を守ろうとした勇気。それらの中へ姿を変え、子供たちの心に生き続けていたのだ。
大人になるとは、怪物を捨てることではない。
現実を生きる力を身につけながら、かつて怪物から教わった優しさを忘れないことである。競争の中でも相手の痛みを想像し、勝敗の外にも人間の価値があると信じることである。
子供たちは、やがて別々の道を歩いていく。
それでも、心が疲れて立ち止まったとき、遠くから見守る怪物の気配を思い出すだろう。
「勝つことだけが、未来ではない。自分らしさを失わず、誰かと共に歩けることもまた、立派な成長なのだ」と。
そして怪物は今日も、現実の空には映らない場所から、かつての子供たちを静かに見守っている。

