WORKS NO. 427 平和のための防衛力拡大
広大な海に囲まれたこの国は、豊かな海洋領域と、いまだ十分に活用されていない資源を抱えている。その地理的特性は恵みであると同時に、常に外的脅威と隣り合わせであることも意味している。国境線が曖昧な海域では緊張が絶えず、偶発的な衝突がいつ起きても不思議ではない現実が続いている。
さらにこの国は、世界で唯一、原子爆弾による甚大な被害を実際に経験した歴史を持つ。その記憶は深い痛みとして受け継がれ、「核を持たない」という姿勢を国際社会に対する強い倫理的主張として掲げ続けてきた。軍事力の強化と、核兵器を否定する理念。その二つを同時に背負いながら、安全保障を構築していかなければならないという、極めて複雑な立場に置かれている。
そこに加わるのが、大国との同盟関係である。
安全を支える重要な枠組みである一方、全面的な依存は自立性を弱める危険も孕む。自らを守る力をどこまで持つべきか。どこまでを他国に委ね、どこからを自国で担うのか。その判断は常に難しく、時代の変化とともに更新され続ける課題である。
防衛力の拡大は、戦うための準備ではなく、戦争を起こさせないための抑止として存在するべきものだ。守る力が弱ければ、対話の場すら与えられない。だが守る力が確かであれば、相手は軽率な行動を控える。平和とは願うだけで維持されるものではなく、現実的な力と責任によって支えられている。
そして、この国の防衛組織の役割は、戦争を想定した任務だけにとどまらない。
大規模な地震、津波、台風、豪雨、土砂崩れ。自然災害が多発するこの土地において、命を守る最前線に立ち続けてきたのは、常に彼らだった。倒壊した建物から人を救い出し、孤立した地域へ物資を届け、断水した街に水を運び、行方不明者を捜索し続ける。そこに政治的立場はなく、敵味方もない。ただ「守る」という使命だけがある。
国を守るとは、国境線を守ることだけではない。
人の命を守り、暮らしを守り、希望を守り、日常を守ることでもある。非常時に最も信頼される存在がどこかを見れば、その組織が社会にとってどれほど重要であるかは明らかだ。
防衛力の議論は、感情的な恐れだけで語るべきものでも、単純な理想論だけで否定できるものでもない。
歴史、地理、国際環境、倫理、災害、同盟。あらゆる要素が複雑に絡み合う中で、「どうすれば平和を現実として守り続けられるのか」という問いに向き合い続けることが求められている。
備えることは、攻めることではない。
守る力を持つことは、争いを望むことではない。
無防備であることが、必ずしも平和を意味するわけでもない。
真の平和とは、理想と現実の間で、責任を引き受け続ける覚悟の上に成り立つものなのだ。

